社会保障制度を学び直すこと

(平成29年厚生労働白書より)

 

私が50歳で岡山大学に入学したのは、社会保障制度を学ぶためです。経済学部のカリキュラムの中に社会保障学があることを見つけ、勉強できると思いました。今年度で4年生となり、単位もほぼ取得することができました。

 

大学学部で行われる講義の社会保障は、日本の財政に関する領域や介護保険制度がつくられた理由など広く一般的で、私の仕事である柔道整復師に関する制度について学ぶことはありませんでした。

 

柔道整復師制度が、社会に貢献できているかどうかを研究したいと思っていたので、自分でテーマを探して研究を深めなければなりません。そのために岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科への入学を志したのです。

 

この研究科には、すでに研究されている分野として「日本における医療活動や疾患の動向はどうなっているか?」という問いを追っておられる先生がおられます。手法は、レセプトデータをはじめとする医療ビッグデータを用いて、疫学的な解析を行うので、まさに私がやりたい研究の方法を学ぶことができるとわくわくしています。

 

そして、英語を学び続けています。理由は海外の文献を読むためと海外の方々とコミュニケーションを取りたいためです。2019年8月から7か月間、アメリカのDallas Baptist UniversityのIEP(Intensive English Program)へ語学留学し、アメリカでの学生寮でブラジル人、中国人、韓国人の生徒たちと同じ3LDKの部屋で過ごしました。

 

同世代のブラジル人とは、同じベッドルームだったのでとても仲良くなりました。彼はブラジルの公的金融機関を退職後、ブラジルでコンサルタント業を起業し、その事業のために英語が必要だったそうです。また、キッチンは一つしかなかったので、毎日お弁当を作る中国人の食に対する思いも感じることができました。中国人は食とお茶に対する思いが本当にすごくて、しかもその味は日本人にも合います。(四川省武漢出身の中国人朋友の唐辛子の使い方にはなじめませんでしたが…)この留学では、習慣が違う人たちと同じ時間を過ごすことで、素晴らしい文化的経験をすることができました。

 

アメリカで留学したかった理由の一つは、オバマケアといわれるアメリカの社会保障制度を学びたいと思ったからです。日本の社会保障制度は、財政的に持続可能かどうか危ぶまれています。制度が変わるとすれば、アメリカの制度に近くなるのではないかと考えたのです。

 

しかし、私は反省しています。もっと日本であらかじめ制度について勉強しておくべきでした。私の能力では、留学中、英語の勉強で精一杯でした。少しでも予習しておけば、アメリカ人とのコミュニケーションをとるときに会話に盛り込めたのにと悔やまれます。

 

先日、無料の英語レッスンをオンラインで受けてみました。日本在住のカナダ人男性が講師だったのですが、この社会保障制度について話してみました。彼は「信じられない」と言います。なぜなら日本の制度が一番良いからだと言いました。アメリカの制度はひどく、カナダの制度のほうがましだから、そちらを学びなさいとアドバイスをしてくれました。

 

グローバルな社会となって、各国が豊かになろうと競い合っています。日本においては、もっと生産性を上げなければと言われ続けています。アメリカは先進国の中でも最も生産性が高く豊かな国であるように思いますが、国民の40%が貧困層および貧困層予備軍に属しているそうです。

 

労働者の60%は、短期契約の非正規雇用で正規雇用の人でも会社の業績が悪化すれば、簡単にレイオフされてしまいます。正規雇用でなければ、会社からの健康保険制度に加入できず、自分で加入するには高額すぎて制度に加入できません。10人に1人が無保険の状態で、高額な医療費が払えず、年間50万人が破産する状況だそうです。

 

そして、生産性の向上を目的に病院の統廃合を進め、寡占化して競争が無くなったために医療費が高騰し、国民は簡単に病院に行くことができません。腰痛で病院に行くと5~10万円(検査項目による)、カイロプラクティックで3万円とアメリカ人講師が言っていました。アメリカ成人の約50%が4万円ほどの突発的費用を支払えないそうです。4万円が払えなければ、病院には行けません。

※参考:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72171

 

 

財政が破綻した後の日本はこのような状況になり得ると考えています。仮にそのような状況になったとしても苦しみを抱えた患者さんを我々の技術で助けることができないかと思い、勉強を続け、スタッフとともに成長を続けています。

 

確かに我々の業界も大きな問題を抱えています。不正請求で逮捕される者もいます。すべての人間が正しい行動をとれるとは思いませんが、少しでも社会貢献ができる能力と知識を身に付けていきたいと思います。

 

寿晃整骨院 総院長 木下広志