柔道整復師と経済学

 

柔道整復師は医療制度が整わなかった戦前戦後の時代に重用された技術でした.医療制度は感染症対策に追われ,健康保険制度がなかった時代において医師のかかるにも大きな負担がある為,簡単に医療サービスを受けることはできませんでした.戦後すぐの昭和23年に法整備が進み,医療法改正があり医療法施行令 昭和23 年政令第326号の中で,政令で定める診療科名として整形外科を含めて多くの診療科名が決められました.その年の東京慈恵会医科大学の整形外科講座は,骨関節結核と脊髄小児麻痺が2大テーマだったということからも,この当時の医療は感染症が研究のメインであったことがわかります.

 

ケガの多かった柔道を教えていた柔道師範は,自然に骨折や脱臼などのケガの治し方を覚え,その後資格として確立された柔道整復師は,運動器と呼ばれる筋や骨のケガに対して施術を行っていました.この当時のケガの治療は,ほとんどが自分の家で治すのが当たり前で,赤チン塗ったり,黒チン塗って毛が生えたりしていた時代です.町にいた柔道の先生は,警察官OBの人も多く,定年後の仕事として柔道を教え,ケガの施術に当たっていたのです.戦国時代に発展した武道には,人を傷つける殺法と人の治療をする活法の両方が奥義として伝達されてきました.

 

私は1966年生まれで,昭和でいうと41年です.そう,ひのえうまの年に生まれました.出生数は約136万人と前年に比べ約25%落ち込んだ年でもあります。私の生まれた年は,経済の歴史での転換点のように思え,その年に日本の総人口は,初めて一億人突破しました

 

1966年でググってみると,次のような出来事がありました.

日本人の海外観光渡航の回数制限が撤廃され、海外ドキュメンタリー番組の『すばらしい世界旅行』放送開始。ビートルズやジャズのジョン・コルトレーンが来日し,一般の日本人が世界に目を向け始めた年代のようです.この年の一人あたりGDPはアメリカドルで1100ドル,1983年に10000ドルを超えました.今の中国が陥っているとされる中所得国の罠といわれる個人所得10000ドルを日本は1980年代に越えたのです.そして1966年,中国では毛沢東による文化大革命がはじまり,1000万人を超える餓死者が発生します.

https://www.mlit.go.jp/common/001020274.pdf

 

1950年代後半に3種の神器と呼ばれる家電製品を買うことがステイタスとされ,白黒テレビ,冷蔵庫,洗濯機が売れた時代で,1960年代では3Cと呼ばれるカラーテレビ・クーラー・自動車を買うことがステイタスでした.この年にトヨタ自動車が「カローラ」,日産自動車が「サニー」,本田技研工業が「S800」を発売。東洋工業(マツダ)が「ボンゴ」「ルーチェ」,ダイハツ工業が「フェロー」を発売しました。

 

私の小さい頃は,映画カメラマンをしていた父の影響なのかテレビは早いうちからあったように思います.4本足の白黒テレビだったと思いますが,電源を切ると最後にブラウン管の真ん中に白い点が入っていて,いつ消えるのかが気になって,いつまでもその点を見ていたように思います.父は大塚製薬の仕事を請け負っていたのか,家には撮影に使うオロナミンCの瓶やボンカレーがたくさんありました.私も何度かおせんべいやシチューのCMの子役として出演したことがあります.

 

テレビ放送では『銭形平次』『笑点』が放送開始。『ウルトラQ』や『ウルトラマン』が始まりました.悲しいニュースとしてはミッキーマウスの生みの親、ウォルト・ディズニーが亡くなったようで,この年までに核実験を成功させた国のみ、核拡散防止条約に定める「核兵器国」と認められ核武装の権利を与えらたようです.

 

スポーツ界としては,巨人・大鵬・卵焼きという言葉が流行っていたように,野球は巨人,相撲は大鵬の一強の様相で,堀内恒夫投手が新人ながら開幕から13連勝し,大鵬は6場所中5場所を制しました。(以上ウィキペディアより)

 

今,FACT FULLNESSという本を読んでいます.先入観を乗り越えてデータで考えようという本ですが,世界は近年とても良くなっているということをデータで示してくれている本です.このハンス・ロスリングというスウェーデン医師はTEDトークにもよく登場しておられます.

https://www.ted.com/talks/hans_rosling_global_population_growth_box_by_box?utm_campaign=tedspread&utm_medium=referral&utm_source=tedcomshare

https://www.ted.com/talks/hans_and_ola_rosling_how_not_to_be_ignorant_about_the_world?utm_campaign=tedspread&utm_medium=referral&utm_source=tedcomshare

 

TEDは無料で視聴でき,日本語字幕もあるので興味のある方はぜひ見てください.特に一つ目の動画は,私がTEDに はまった原因となった動画です.彼はFACT FULLNESSを執筆中の2017年にすい臓がんのために亡くなりました.死ぬ時も病院のベッドの上で原稿の手直しをしていたそうです.その後,共著者である奥さんと息子の手によってこの本は完成されました.

 

ハンスによると,1日当たりの所得レベルによって生活が変わるといっています.

 

レベル1:所得2ドル以下,

レベル2:所得8ドル以下

レベル3:所得32ドル以下

レベル4:それ以上

 

この所得は日給なので年収と比較してみましょう.32ドルですが,このころの仕事は,月火水木金金という歌もあったりして盆と正月しか休みはなかったかもしれません.いわゆる従軍慰安婦について経済的な視点から描いたラムザイヤー教授の論文にも出てきた「年季奉公」は,丁稚制度ともいわれ藪入りといって盆と正月だけがお休みだった時代もありました.これはNHKの連続ドラマ「おしん」や「ああ野麦峠」にもでてくる労働で,おしんなどは完全に児童労働なのでブラック企業などの言葉では測れませんが,今の時代でもレベル1の国を中心にこのようなことが起こっています.しかし,そのような国はどんどん減少している事実もこの本に書いてありました.

 

レベル3の年収を考えてみましょう.戦後はずっと360円の固定相場だったので,32ドルで300日働いて1ドル360円とすると約350万円の年収となります.今日の円相場なら1ドル109.02円なので約105万円とほぼ扶養控除される金額で,さらに週休二日制で考えると日本の平均年間労働日数は約257日となるので年収90万円,計算すればするほど,貧しいのか裕福なのかわからなくなります.令和2年の日本の平均年収は462万円ですが,日給をドル換算すると約165ドルになり現在の日本の裕福さがわかります.

¥4,620,000÷257日÷109.02=164.89ドル

 

それぞれのレベルの生活は次のようになります

レベル1:家にバケツは一つ,歩いて移動し,調理は水に含まれる泥と一緒になる.

レベル2:もう一つバケツを買うことができ,移動は自転車,子供たちは小学校に行ける

レベル3:水道が引けて,子供たちは高校に行ける,初めての家族旅行

レベル4:自動車に乗り,子供たちは学校へ12年通える,ガスレンジで調理

 

1960年代の日本はレベル3からレベル4への転換点だったように思います.もちろん地方においては,井戸水と薪で調理や入浴をしていたかもしれませんが,自動車や冷蔵庫が普及した年代のようです.

 

柔道整復師は,このレベル2~3の頃に,最も活躍していました.そのころ骨折したり,脱臼した身体を治すことは柔道の先生のほうが専門だったからです.病気は感染症で手いっぱいでした.薬も漢方薬が中心でペニシリンなどが簡単に手に入るようになったのは戦後で,結核が死亡原因ランキングから消えたのは昭和31年です.

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth7.html

 

私が小学校当時(1970年代)に住んでいた家は,水道がなく山水を貯水槽に貯めて上澄みを飲んでいましたが,雨が大量に降ると土で濁っていました.ピロリ菌感染は40代以上の井戸水を飲んでいた人に良くあるそうですが,ほとんどの胃がんと胃潰瘍はピロリ菌除菌で予防できるそうなので井戸水を飲んでいた人はぜひ検査してください.私は山水だったので大丈夫でした.

 

こうしてデータで自分の人生を振り返ってみると,幸せな時代に生まれたことに気付きます.旅行したいと思えば,飛行機で海外にも行けるしインターネットを介して世界中の情報を瞬時に知ることができます.柔道整復師もレベル4の生活に応じた医療サービスを提供できるように変化し続けなければなりません.

 

しかし,世界にはまだまだレベル1の生活をしている人たちが10億人程度いるそうです.そして,人口爆発を防ぐにはそのような人たちがレベル4に近づくことを助けることで少子化となることがわかっており,しかも我が子たちの死という不幸に合わずに済みます.

 

レベル1の人々が豊かになろうとしても,彼ら自身の力だけではなかなか難しいようです.日本においては税制の問題もあって寄付の文化は根付いていませんが,そのような活動をしている人を支援することも一つの方法です.YouTubeを見るだけでも広告費は入ります.援助している人の動画をぜひ見てください.

https://www.youtube.com/channel/UCLubQ17jEPLmYmfQ0KW7dGA